セネガルの漁業とそれを支える水産加工のおばちゃん達について(第2回)

 

主任コンサルタント 長島 聡

 

第1回は、小学校も出ていない水産加工のおばちゃんたちが、家族のために頑張って朝から晩まで働いているという話を書きました。今回は、セネガルで使用されている水産加工の技術について詳しく紹介します。

 

セネガルでは、海辺での水産加工が主流です。水産加工法にはいくつかの技法があって、前回紹介しました「ケチャ」のほか、魚を塩水に数日つけてから乾燥させる「ゲジ」、「タンバジャン」、「サレ・セシュ」(塩分濃度や魚の種類によって呼び名が違います)などの塩乾品が主要な加工品です。セネガルの水産加工品は、マリやブルキナファソなど海のない内陸国にも輸出されておりますが、冷蔵技術のなかったころの名残で「タンバジャン」、「サレ・セシュ」といった塩分濃度が高く、冷蔵しなくても輸送できる加工品が輸出用となっています。一方、「ゲジ」は塩水の塩分濃度が比較的薄くしてから発酵させるもので、セネガル国内向けの製品です。

 

「ゲジ」、「タンバジャン」、「サレ・セシュ」の技法には、地域ごとに大きな技法の違いはないのですが、前回紹介した「ケチャ」の技法は大きく「塩あり」と「塩なし」、「煮沸法」と「燻製法」に分かれます。先ほどの塩乾品の場合と逆に、なぜか内陸国のブルキナファソなどは「塩なしケチャ」を好みます。よって加工のおばちゃん達は注文に応じて作り分けなければなりません。ただ、この「塩なしケチャ」はウジ虫の大好物で、保存中もすぐに虫がわきますし、ブルキナファソまでの輸送中に、相当な量が虫に食べられてしまいます。そんなリスクを負ってもおばちゃん達が「塩なしケチャ」を作るのは、こちらのほうが仲買人の買い取り価格が高いからです。

 

ケチャの製造風景

 

また、「煮沸法」を用いているのか「燻製法」を用いているのかは、地域によって異なります。世界遺産に指定されているサンルイとその周辺は、代表的な「煮沸法」を使用している地域です。煮沸法は、アルミの鍋やドラム缶を半分に切って作った鍋を使い、海水で魚を煮込んだ後で塩を添加して乾燥させます。一方、ジョアールやカヤールなどのセネガルの代表的な加工地域は「燻製法」が主体です。これは、燻製かまどを使用し、調理した後で乾燥させます。

 

燻製かまど

 

煮沸かまど

 

これらの技法の違いは、魚を加熱するときに水を使うか使わないかですが、それぞれ長所と短所があります。まず、煮沸法の長所ですが、初期投資が安く(日本円で約2,000円)、おばちゃん一人でもすぐに始められることです。一方、1回に処理できる魚の量が少ないこと、炎天下の下で1日中鍋の前に立って火の管理をしていなければならないことが、煮沸法の短所です。

 

燻製法は、1回に処理できる魚の量が煮沸法の10倍以上なうえ、一旦火が付いたら後は調理が終わるまでほっておいても大丈夫で、作業が非常に効率的です。また、高く売れる「塩なしケチャ」も作れるのも有利な点です。しかし、かまどの建設や修理にかかるお金が高いうえ(日本円で約10万円)、大量に原料の魚を購入できるだけの資力がおばちゃん達に必要となるのが短所です。

 

当然、おばちゃん達はもし建設する資金があれば、断然作業が楽な燻製法を選択するだろうと、普通は考えます。また、一人で燻製かまど1回分の原料が買えなければ、みんなで共同購入して使えばよいのではないかと、外部者は考えてしまいます。しかし、実際にはなかなか一筋縄ではいかないのが、水産加工のおばちゃん達への支援が難しい点です。何故そうなってしまうのかは次回に説明します。

 

セネガルの漁業とそれを支える水産加工のおばちゃん達について 第1回

 

セネガルの漁業とそれを支える水産加工のおばちゃん達について 第3回